【怪談祭り2022】プレイバック編~コックリさん~戻ってきた10円玉~(7月7日)[No.017]
コックリさん
投稿者:みつき さん
投稿日:2019年7月30日(火)
16年前、中学生の時の話です。よくあるコックリさんの話。
私の出身の中学校は、墓地の跡地に建てられているという話は入学した当初から全校生徒が知るほど有名な話でした。
私の周りには霊感の強い友人が数名いたので、学校で起こる心霊現象の話も日常で、慣れていました。
霊感のない私には、耳にする話全てが新鮮で、見えないものが見える彼女達の存在は子ども心に安易に憧れてしまっていたのでした。
そんな環境で、ふいに流行り始めたコックリさん。
放課後、教室からは教師の姿がなくなり大多数の生徒は下校を始めている時間帯。
誰も教室に近寄らないその限られたわずかな時間を狙ってクラスの女子達が毎日のように数名が入れ替わりでコックリさんをしていました。
私もある放課後誘いを受け、Aさん、Bさんの3人でコックリさんをすることになります。
Aさんは言います「何回もコックリさんやったことあるんだけど、いつも何も起こらない。怖くないよ?」Bさんも、余裕の表情。
ただ、私はこの時が生まれて初めてのコックリさん。怖いもの見たさで誘いにのったので、「今日は見ているだけにする」と彼女達から一歩離れて立って見ていました。
50音のひらがな、赤い鳥居の絵、はい・いいえの文字…コックリさんを呼び出す為に手書きで簡易的に作られた一般的な用紙が学習机に置かれ、AさんとBさんは机を挟んで向き合うようにイスに座ります。
そして10円玉を用紙の上に置き2人の人差し指がのせられ…「「コックリさん、コックリさん、おこしください」」と唱えはじめた2人。
ゆっくり動き始めた10円玉。2人は喜んでいました。どんな質問をしたのかまでは今となっては覚えていません。
思春期の女子特有のたわいのない質問だったのだと思います。
質問の度に動く10円玉。初めて見るそれは異様なものでしたが、私も2人が満足したら次は遊んでみたいなと興味すら湧いていました。
しばらく質問を続けていると、校内アナウンスで生徒の帰宅を促す放送が流れてきました。
私は「もう下校時間だから帰らないと先生に怒られるね」というような事を2人と話したと思います。
Aさんは「コックリさん、コックリさんおかえりください」と唱えます。
すると、10円玉が「いいえ」の方へ、スゥーと移動します。Bさんも同じように唱えますが「いいえ」と答えが変わりません。
私は、彼女達が私を驚かせようとしてわざと「いいえ」と演技をしているとさえ思えてきていました。
「もう、終わり?帰らないと…」私は、あまり深く考えず2人に問います。AさんもBさんも表情は固く、Aさんがただひとことポツリと「コックリさんが帰らない…帰ってくれない。」と口にしました。
疎い私は、頭の中がハテナでいっぱいです。「帰ってくれない」ことがどういうことなのかよく理解できていなかったのですから。
Aさんは、何度も何度も「帰ってください」と唱えます。10円玉は、あっち、こっちにスゥーと移動するばかり。
次第に「いいえ」にも止まらなくなったと思います。
そんな時、一歩下がって見ていただけの私の聴覚に異変が現れます。パシッ、パチッ…と何かが弾け飛ぶようなあまり身近では聞き慣れない音が教室全体から聞こえてきます。(後にラップ音というものではないかとわかりました)
「この音…何??」私は2人に聞きますが、2人には全くその音が聞こえていませんでした。
ほんのいっとき鳴っていた破裂音は聞こえなくなりました。流石に私も怖くなってきて、「いつになったら帰れるのか?」というような事を叫ぶように彼女達に言い放っていたと思います。
そんな時、さらに事態は悪化します。Bさんが口をパクパクとして、のど元に手を当てて、声にならない声…掠れたような音を発してAさんに必死で伝えようとしている様子が見えます。
「声…どうしたの?声…でないの?」
Bさんは首を縦に振りました。私もAさんもここからはパニックで、もはや「怖い」「怖い」と叫ぶしかなく、ただただどうしていいのかわからず時間だけが過ぎていきます。
私は、10円玉に触れていなかったのだから、自分だけ教室を飛び出す事だってできたはずだけれど、なぜかその時はその場から1歩も動けなかったのです。(恐怖もあるし、誰かにこの状況がバレてしまうのもマズイと思っていた)
3人そろって、身動きとれずにいると校内アナウンスで2回目の帰宅を促す放送が流れてきました。私たちはただただその放送が鳴り終わるのを聞いている事しかできませんでした。
放送が終わってしーんと静まる教室。
先ほどのパニック状態はやや落ち着いていましたが、Bさんはまだ声を発することができずにいました。
放送が終わってから10分だったか20分だったか、Aさんがふと「コックリさんおかえりください」と唱えると、先ほどまで断固として譲らなかった「はい」の選択肢がすんなりと受け入れられ、私たちはやっとの思いで解放されたのでした。
「あ…あ…声が…声が出る!」Bさんは10円玉から手を離すと、自然と発声できたらしく、3人でしばらくは教室で恐怖から解放された事を喜んでいました。
ひとしきり騒いで3人で一緒に帰ろうとした時には、下校完了の時刻など遠の昔に過ぎていて、教室を後にしてからは、校内で他の生徒とひとりも会うことはありませんでした。
それどころか、教師や事務員にも合うこともなかったのが、逆に気味が悪かったのを今でも覚えています。
Aさんは、ふと言います。
「コックリさんをしたときの10円玉は持っていたらダメ。だから、公衆電話でここに電話をかけて手元から無くしてしまうの。」
制服のポケットから折りたたまれたメモ用紙をすっと取り出した彼女は、随分長い番号を公衆電話に打ち込んでいました。(私はその番号がどこにつながるかも知らなかったですが、今となってはアダルト系だったということにしておきます。)
そして、1コール鳴ったのを確認した彼女は受話器を耳から離して通話を強制的に、終わらせました。
10円玉は公衆電話の中に消えていったのを3人で確認してから、やっとすべての事象から解放されたのだとほっとしました。
それから、どうやって家に帰ったとか、2人と何を話したなどは全く覚えていません。何も話さずほとんど会話も弾まず帰ったのかもしれません。
次の日…いつも通りに登校して、朝会で担任の先生が教壇に立ったところで、私は青ざめました。
「誰だ!!教室に落ちてたぞ?まさか、10円玉で遊んでるやつがいるんじゃないか?」
先生と目がバッチリ合いました。もちろん、私は発言することなく知らないふりを決め込みました。
そんな事より、10円玉が落ちていた?昨日のあの10円玉が?
いや、絶対そんなはずはない…偶然だれかがほんとうに落としただけ…でも誓って2度とコックリさんなんて誘われてもしない。と懲りた体験でした。
[このページはここまで ですっ!]