【怪談祭り2021】みなさんからの投稿~かげろう~「挨拶に来てくれたのだと思います」~(8月2日)[No.019]
かげろう
投稿者:めぐみさん
投稿日:7月28日(水)
怖くないかもしれませんが、聞いてください。
長年、何十年間も入退院を繰り返し闘病していた叔父が、いよいよ今日明日の命かもしれない、上の血圧が50程度で、なんとか力を振り絞って頑張っているが、付き添いするほうも覚悟ができた頃だと思います。
最期の日。
この日は親代わりをしてくれていた兄弟に会う時間をやっと持てました。病室に入って30分。彼は逝きました。
みんな覚悟ができていて、静かな見取りだったように思います。
私は年寄りに付き添いながら帰路につきましたが、運転しながら涙が出てしまいます。後ろの席は静かです。
翌々日の葬儀の日。早めに行ってお線香をあげました。
まだ数人しかいないロビー。彼の眠っている部屋の入り口近くに受け付けがありました。コロナ禍の家族葬儀です。
しんと静まり返り、エアコンの風の音や足音すらしません。
ふと見上げると、苗字の入った案内板の上に小さな黒いかげろうがいます。私達が気が付いても案内板につかまったままで、羽を軽く開いたり閉じたりしています。
確かうちの庭にも2、3日前にいたことを私は思い出しましたが黙っていました。
隣にいた、入院中も最期までお世話をされていた方が話し始めました。
「この虫はなんの名前だかわからないけど、最近うちの周りでパタパタしてたなぁ。なんだろうな。」
たった1日しか生きられないかげろうが室内にいること自体が不思議でしたが、亡くなった叔父さんも黒くて小くてパタパタしてたなぁと思い、切なくなってしまうのでした。
きっと挨拶に来てくれたのだと思います。
[この怪談は…ここまで……です…]