【怪談祭り2020】みなさんからの投稿~「あの世の住人が、こちらの居場所を突き止めるのは時間がかかる」~(8月18日)[No.056]
「あの世の住人が、こちらの居場所を突き止めるのは時間がかかる」
投稿者:海さん
投稿日:8月17日(月)
この話は、以前こちらに投稿しようとして送信前に内容をチェックしていたら、PCの調子が悪くなり全文が消えてしまったお話なのですが、再挑戦してみます。
以前勤めていた会社の応接室に、リクルートスーツ姿の若い女性の幽霊がいました。はっきり姿が見えるというより、応接室の前を通る時、一瞬ちらっと眼の端に姿が映るという見え方でした。
入口近くの1人掛けの椅子が彼女の定位置で、いつもそこに俯(うつむ)いて座っていました。表情は、ボブカットの髪に隠れて見えませんでした。
一瞬しか見えないため目の錯覚だと思っていたのですが、毎日のように同じ場所に同じものが見えるのも変だな?と思いながらやり過ごしていました。
ある日、受付の子とお喋りをしている時に応接室の幽霊の話が出て、見えるのが私だけではなかったことが分かりました。
受付の子には見えなかったようですが、少し前に退職した子が、私の説明と全く同じ特徴を話していたそうです。
彼女の定位置は、社内会議の度に皆が避ける席でした。
見えない人も、幽霊の話を知らない人も、なぜかその椅子には座ろうとしません。座りごこちのいい椅子なのに、そこに座るくらいならパイプ椅子の方を選ぶレベルで避けられていて、私がクレーム処理で遅れて会議室に入ると、高確率でその席が残っていました。
こっそり塩をまいたこともありますが、効果はありませんでした。
会社の業績が良くなると彼女の俯きはだんだん深くなり、一番羽振りの良かった時は、机に頭がつきそうな勢いで前傾していましたが、やがて業績が悪化していくと、体を起こしていきました。
恐らく彼女は、会社に何かしらの恨みを持って亡くなった人なのでしょう。実際ブラック企業だったので、恨んでいる人がいてもおかしくありません。
オフィスはビルの最上階(8階)にありましたが、家賃が下がることと他のテナントが最上階を希望したため、資金繰りに困っていた会社は7階に移転することになりました。間取りは以前と全く同じです。
引っ越した直後から彼女の姿が見えなくなったので、ようやく諦めたのかと思いましたが、約1カ月後に同じ場所に現れました。
私達の感覚だと1階分下がっただけですが、あの世の住人が、こちらの居場所を突き止めるのは時間がかかるんだな、と思ったのを覚えています。
移転してから1年ほど過ぎた頃に退職しましたが、一度だけ、彼女が席を立ち応接室の奥にいる姿を見ました。
入口に背を向けていたので顔は見えずじまいでしたが、なぜか腕が粟立つほど怖かったのです。それまで彼女を怖いと感じたことはありませんでした。
それから約1年半ほどして会社が倒産しました。
[この怪談は…ここまで……です…]